商標登録の費用を左右する「区分」の賢い選び方|失敗しないための業種別具体例とコスト削減テクニック

コスト削減と権利保護を両立させるプロの視点。あなたのビジネスを正しく守るための必須知識

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商標の「区分」とは?事業の権利範囲を決める設計図

商標権は、ロゴやネーミングといった「商標」と、その商標をどのような「商品・サービス」に使用するのか、という二つの要素の組み合わせで一つの権利となります。つまり、「どの商標」を「どの事業領域」で独占的に使用する権利なのかを明確にする必要があるのです。

この「事業領域」を分類したものが「区分」です。商標法では、世の中のあらゆる商品やサービスを全45のカテゴリーに分類しており、出願時にはこの中から自社の事業に関連する区分を指定します。例えば、Tシャツという「商品」は第25類、レストランでの飲食サービスという「役務(サービス)」は第43類、といった具合です。この区分こそが、あなたの商標権がどこまで及ぶのかを定める、権利の設計図そのものなのです。

区分数と費用は完全に連動!コスト構造を徹底解剖

区分が重要なもう一つの理由は、費用に直接結びついている点です。特許庁に支払う費用は、選択する区分の数に応じて段階的に増加します。具体的な計算式は以下の通りです。

出願料 = 3,400円 + (8,600円 × 区分数)

登録料(10年分) = 32,900円 × 区分数

この式が示す通り、区分が1つ増えるだけで、出願時と登録時を合わせて合計41,500円もの追加費用が発生します。以下の表で、区分数に応じた費用の違いを確認してみましょう。

区分数 出願料 登録料(10年) 合計費用
1区分 12,000円 32,900円 44,900円
2区分 20,600円 65,800円 86,400円
3区分 29,200円 98,700円 127,900円
5区分 46,400円 164,500円 210,900円

このように、区分を無計画に増やしてしまうと、費用はあっという間に膨れ上がります。事業を適切に保護しつつ、無駄なコストをかけないためには、戦略的な区分選定が不可欠なのです。

自分のビジネスはどの区分?まずはJ-PlatPatで調べてみよう

では、自社のビジネスがどの区分に該当するのか、どうやって調べればよいのでしょうか。最初のステップとして便利なのが、特許庁が提供するデータベース「J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)」です 5

このサイトの「商標検索」メニューから「商品・役務名検索」機能を使えば、例えば「Tシャツ」や「経営コンサルティング」といったキーワードで検索するだけで、それらがどの区分に含まれるのかを簡単に確認できます。

また、競合他社や目標とする企業が、どのような商標をどの区分で登録しているかを調べることも、自社の戦略を立てる上で非常に有効な手段となります。

まずはこのツールを使って、自社の事業領域と関連区分の当たりをつけてみましょう。

区分選びの精度を上げる!「ニース国際分類」と「類似群コード」という2つの物差し

J-PlatPatで大まかな区分がわかったら、次はその精度をさらに高めていくステップです。商標の世界には、区分選びをより深く、正確に行うための重要な概念が二つ存在します。それが「ニース国際分類」と「類似群コード」です。これらは一見すると専門的で難しく感じるかもしれませんが、この二つの物差しを理解することで、他社との権利範囲の重複を避け、自社のブランドをより強固に守ることが可能になります。

世界共通の分類基準「ニース国際分類」とは?

私たちが普段「区分」と呼んでいるものは、正式には「ニース国際分類」に基づいています。これは「標章の登録のための商品及びサービスの国際分類に関するニース協定」という国際条約によって定められた、世界共通の分類基準です。

商品は第1類から第34類まで、サービス(役務)は第35類から第45類までの合計45クラスに分類されており、日本を含む多くの国でこの分類が採用されています。これにより、国際的に事業を展開する際にも、どの国で出願する際も、共通の基準で自社の事業領域を指定することができるのです。

それぞれの類には、どのような商品やサービスが含まれるのかを示す「類見出し」というものがあり、区分を選ぶ際の大きな指針となります。

特許庁の審査における最重要指標「類似群コード」の秘密

ニース国際分類が世界共通の大きな枠組みであるのに対し、「類似群コード」は日本の特許庁が審査の際に用いる、より細かい独自の指標です。これは、商品やサービスが互いに類似しているかどうかを判断するために、各指定商品・指定役務に付与される5桁の英数字コードです。

特許庁の審査では、「類似群コードが同じ商品・サービスは、互いに類似するものと推定する」という原則が適用されます。

つまり、たとえニース国際分類の「区分」が異なっていても、この類似群コードが同じであれば、類似の権利範囲と見なされ、先に他社が登録していれば、後からの出願は拒絶される可能性が非常に高くなります。

この類似群コードこそが、先行商標調査や権利範囲の確定において、極めて重要な鍵を握っているのです。

【要注意】区分が違うのに「類似」と判断される具体例

類似群コードの重要性を理解するために、具体的な例を見てみましょう。例えば、あなたがカフェを経営しており、店内で提供する「コーヒー」と、店頭で販売する「コーヒー豆」のブランド名を保護したいと考えたとします。

• 店内で提供するコーヒー(サービス)は、第43類の「飲食物の提供」に含まれます。

• 店頭で販売するコーヒー豆(商品)は、第30類の「コーヒー」に含まれます。

このように、ニース国際分類上は「第43類」と「第30類」という全く異なる区分に属します。しかし、特許庁のデータベースで確認すると、この両者には「29B01」という共通の類似群コードが付与されています。これは、生産部門や販売場所、需要者が共通することから、両者は類似する商品・サービスであると特許庁が判断していることを意味します。

もし、あなたが第43類だけで商標登録を済ませていた場合、後から他社が同じ名前で第30類の「コーヒー豆」を登録しようとしても、類似群コードが同じであるため、あなたの権利に基づいてその他社の出願は拒絶される可能性が高いです。

逆に、先行調査の際に区分だけを見て、類似群コードを確認しなかった場合、他社の権利を見落としてしまい、自社の出願が拒絶されるというリスクに繋がります。

区分選びの際には、必ずこの類似群コードまで確認することが、失敗を避けるための鉄則です。

【業種別】ケーススタディで学ぶ!失敗しない区分選び実践ガイド

理論を理解したところで、次は実践です。自社のビジネスに当てはめて考えられるよう、具体的な業種別のケーススタディを通じて、戦略的な区分選びの方法を学んでいきましょう。ここでは特に相談の多い「飲食店」「アパレル・ECサイト」「IT・Webサービス」そして「コンサルティング・教育事業」の4つの業種を取り上げます。

Case 1:飲食店(カフェ・レストラン・居酒屋)

飲食店と一言で言っても、その事業形態は多岐にわたります。イートインだけでなく、テイクアウトや物販、オンラインでの展開など、事業の広がりを正確に捉えることが重要です。

基本の区分:

まず、店内でお客様に食事や飲み物を提供するサービス(イートイン)は、必ず押さえるべき基本の区分です。これは「第43類:飲食物の提供」に該当します。

追加で検討すべき区分:

• テイクアウト・デリバリー: お弁当や調理済みの料理を持ち帰り用に販売する場合、「第30類」や「第29類」が必要になることがあります。また、自社で配達まで行う場合は「第39類:輸送」も関連します。

• 物販: オリジナルのコーヒー豆やドレッシング、お菓子などを販売する場合は、それぞれの商品が属する区分(例:コーヒー豆は第30類、ドレッシングは第29類)が必要です 6

• オリジナルグッズ: Tシャツやマグカップなどのオリジナルグッズを販売するなら、「第25類:被服」や「第21類:台所用品」なども保護範囲に含めるべきでしょう 3

• 通販サイトの運営: オンラインストアを運営する場合は、小売サービスとして「第35類」の取得も検討します。

例えば、コーヒーショップチェーンの「ドトール」は、イートインサービス(第43類)、テイクアウトやコーヒー豆の販売(第35類、第30類)といった形で、事業内容に合わせて複数の区分を組み合わせて権利を保護しています。

Case 2:アパレル・雑貨(ECサイト運営)

オンラインを中心にアパレルや雑貨を販売する場合、「何を売るか」と「どう売るか」の両面から区分を考える必要があります。

基本の区分:

ECサイトの名前やセレクトショップの店名自体を保護する場合、中心となるのは「第35類:小売等役務」です。これにより、他社が類似の店名でオンラインストアを運営することを防ぎます。

追加で検討すべき区分(取扱商品に応じて):

自社ブランドの商品を製造・販売する場合、その商品そのものを保護するために、各商品が属する区分での登録が不可欠です。

• 衣類・靴・帽子: 第25類

• バッグ・財布: 第18類

• アクセサリー・腕時計: 第14類

• メガネ・サングラス: 第9類

例えば、スポーツブランドの「NIKE」は、オンラインショップ名(第35類)だけでなく、そこで販売する靴や衣類(第25類)など、商品自体の区分でも商標を登録しています。これにより、ブランド名と商品の両方を包括的に保護しているのです。

Case 3:IT・Webサービス・アプリ開発

IT業界の区分選びは、サービスの提供形態によって大きく異なります。特に「ダウンロード型」か「クラウド(SaaS)型」かは大きな分岐点です。

基本の区分:

• ダウンロードして使用するアプリ: ユーザーがスマートフォンやPCにインストールして使うタイプのアプリケーションは、「第9類:電子計算機用プログラム」に該当します。

• オンラインで提供するSaaS型サービス: ユーザーがブラウザなどを通じてサーバー上の機能を利用する、いわゆるSaaS(Software as a Service)は、「第42類:電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守」が中心となります。

追加で検討すべき区分:

• 広告収入モデル: サイトやアプリ内に広告を掲載して収益を得るビジネスモデルの場合、「第35類:広告業」の取得が重要です。

• コンテンツ配信: 動画や音楽、電子書籍などを配信するサービスは、「第41類:オンラインによる電子出版物の提供」などが関連します。

• 通信・プラットフォーム: SNSやマッチングアプリなど、ユーザー間のコミュニケーションを媒介するサービスは、「第38類:電気通信」や「第45類:身の上相談」なども検討の範囲に入ります。

大ヒットしたゲームアプリ「ポケモンGO」は、ダウンロードアプリとしての「第9類」だけでなく、ゲーム機用おもちゃとしての「第28類」、イベント開催などのサービスとしての「第41類」など、多角的な事業展開を見据えて複数の区分で権利を取得しています。

Case 4:コンサルティング・教育事業

形のないサービスを提供するコンサルティングや教育事業では、提供する専門知識の「内容」が区分選定の鍵となります。

基本の区分:

• 経営コンサルティング・マーケティング支援: 企業の事業に関する助言や支援を行うサービスは、「第35類」に分類されます。

• セミナー・研修・オンライン講座の提供: 知識や技術の教授、教育、訓練に関するサービスは、「第41類」が該当します。資格認定サービスなどもこの区分に含まれます。

追加で検討すべき区分:

• 教材の販売: セミナーで使用するテキストや、オンラインで販売するPDF、動画教材などは「物」として扱われます。書籍や印刷物は「第16類」、ダウンロード可能な電子ファイルは「第9類」での登録が必要です。

• 専門家マッチングプラットフォーム: 専門家とクライアントを繋ぐウェブサイトやアプリを運営する場合、そのプラットフォーム自体は「第42類」や「第45類」のサービスと見なされる可能性があります。

このように、自社の事業内容を細分化し、現在提供しているサービスと将来展開する可能性のあるサービスをすべて洗い出すことが、抜け漏れのない区分選びの第一歩となります。

これだけは避けたい!区分選びでよくある5つの失敗例とその末路

戦略的な区分選びの重要性を理解していても、知識不足や思い込みから思わぬ落とし穴にはまってしまうケースは後を絶ちません。ここでは、実際に多くの事業者が陥りがちな5つの典型的な失敗例を、その先に待ち受ける悲惨な結末とともに紹介します。他社の失敗から学び、同じ轍を踏まないようにしましょう。

失敗例1:権利範囲が狭すぎた… 事業拡大の足かせになったA社の悲劇

A社は、手作りのオリジナルケーキを販売する小さなカフェ(第43類)からスタートしました。お店は評判を呼び、多くのファンを獲得。次にA社は、看板商品であるチーズケーキをオンラインで全国に販売しようと考えました。

しかし、ECサイトを立ち上げた直後、よく似た名前のチーズケーキの通販サイトが既にあることを発見。相手はA社より後発でしたが、A社が取得していなかった「菓子」(第30類)や「小売サービス」(第35類)の区分で商標登録を済ませていたのです。

結果、A社は多額の費用をかけて築き上げたブランド名をECサイトで使うことができず、事業拡大の大きなチャンスを逃してしまいました。

失敗例2:権利範囲が広すぎた… コスト増&拒絶リスクで自滅したB社の教訓

B社は、将来あらゆる事業を展開する可能性を考え、「念のため」とばかりに自社の事業とは直接関係のない区分まで含めて10区分で商標出願を行いました。まず、出願と登録だけで50万円近い高額な費用が発生。

さらに悪いことに、そのうちの1つの区分で、他社の先行登録商標と類似しているという拒絶理由が特許庁から通知されました。1つの出願で複数の区分を出願する「1出願多区分制度」では、一部の区分に拒絶理由があると、問題のない他の区分も含めて審査がストップし、登録が大幅に遅れてしまうのです。

B社は、不要な区分を含めたがために、時間も費用も無駄にしてしまいました。

失敗例3:商品とサービスを混同… ブランドを守りきれなかったC社の油断

C社は、ユニークなデザインが人気のオリジナルTシャツブランドです。C社は自社ブランド名を、Tシャツという「商品」が属する「第25類」でしっかりと商標登録していました。

しかし、そのブランド名を冠した公式オンラインストアの名前については、小売「サービス」である「第35類」での登録を怠っていました。これに目を付けた模倣業者が、C社とそっくりの店名で偽物のTシャツを販売するECサイトを開設。

C社は商品(第25類)については権利を主張できましたが、店名(第35類)については権利がなかったため、模倣サイトの閉鎖に手間取り、ブランドイメージに大きな傷がついてしまいました。

失敗例4:指定商品の表現が曖昧… 特許庁から拒絶理由通知が届いたD社の焦り

ITサービスを開発したD社は、商標出願の際に指定役務を「IT関連サービス」という漠然とした言葉で記載してしまいました。特許庁の審査では、権利範囲を明確にするため、提供する商品やサービスの内容を具体的に特定することが求められます。

結果、D社には「指定役務の表示が不明確である」として拒絶理由通知が届き、どのようなサービスを提供するのかを具体的に説明し直す「手続補正書」の提出を求められました。余計な手間と時間がかかっただけでなく、対応を誤れば登録自体が認められない可能性もありました。

失敗例5:炎上事例から学ぶ… コミュニティを敵に回した「ゆっくり茶番劇」問題

2022年、ある特定の動画ジャンルで広く使われていた「ゆっくり茶番劇」という言葉が、一個人の手によって商標登録され、年間10万円のライセンス料を要求したことで大きな騒動となりました。

この事例は、区分や指定役務の選び方によっては、特定のコミュニティや業界で一般的に使われている言葉を独占しようとしていると見なされ、社会的な非難を浴びるリスクがあることを示しています。

商標登録は法的な権利であると同時に、社会的な文脈の中で行われる行為です。他者の創作活動や正当な商慣習を不当に妨げるような権利取得は、ブランドにとって長期的にマイナスとなる可能性があります。

コストを抑えつつブランドを最大限保護する戦略的テクニック

失敗例から学んだように、区分選びは多すぎても少なすぎても問題が生じます。では、どうすればコストと権利範囲のバランスを取り、自社のブランドを賢く守ることができるのでしょうか。ここでは、出願戦略や審査過程で活用できる、より専門的で実践的なテクニックを3つ紹介します。これらの知識は、予期せぬトラブルに直面した際の強力な武器となります。

テクニック1:1出願多区分 vs. 区分ごとに分割出願、どちらが得か?

複数の区分で出願する場合、方法は大きく分けて二つあります。一つは、一つの願書で複数の区分をまとめて出願する「1出願多区分」。もう一つは、区分ごとに願書を分けて、複数の出願として手続きする「分割出願」です。それぞれにメリット・デメリットがあり、状況に応じた使い分けが重要です。

  1出願多区分 区分ごとに分割出願
メリット ・出願料の基礎料金(3,400円)が1回分で済むため、費用が割安になる
・出願手続きや管理の手間が少ない
・一部の区分に拒絶理由があっても、他の出願の審査に影響しない
・問題のない区分から先に権利化を進めることができる
デメリット ・一部の区分に拒絶理由があると、出願全体の審査がストップし、権利化が遅れる ・出願ごとに基礎料金がかかるため、総費用が割高になる
・出願手続きや管理の手間が増える

判断基準:「登録の確実性」

すべての区分で登録される自信がある場合は「1出願多区分」でコストを抑えるのが合理的です。一方で、一部の区分で先行商標との類似が懸念されるなど、拒絶のリスクがある場合は、あらかじめ区分を分けて出願しておくことで、リスクを分散し、確実な部分だけでも早期に権利化するという戦略が有効になります。

テクニック2:拒絶理由通知への対応策「分割出願」と「補正」

もし「1出願多区分」で出願し、一部の区分に拒絶理由が通知されてしまった場合でも、打つ手はあります。ここで役立つのが「分割出願」と「補正」という手続きです。

分割出願: 拒絶理由が通知された後でも、問題となっている区分だけを元の出願から切り離し、新しい別の出願として手続きし直すことができます。これにより、元の出願に残った問題のない区分については審査を進めてもらい、早期に権利化を図ることが可能になります。問題の区分については、新しい出願の中でじっくりと反論や対策を練ることができます。

補正: 出願内容を修正する手続きを「補正」と呼びます。審査の過程で、指定した商品やサービスの範囲を狭める(減縮する)ことや、明らかな誤記を訂正することは可能です。例えば、「菓子」という広い範囲で拒絶された場合に、「和菓子」に限定することで登録を目指す、といった対応が考えられます。ただし、注意点として、一度出願した後に指定商品・役務の範囲を広げたり、全く別のものに変更したりすることは原則として認められません。

これらの制度をうまく活用することで、審査の過程で発生した問題に柔軟に対応し、権利化の可能性を最大限に高めることができます。

テクニック3:将来の事業展開を見据えたミニマムスタート戦略

コストを最小限に抑えたいスタートアップや小規模事業者におすすめなのが、この「ミニマムスタート戦略」です。これは、出願時点では現在の核となる事業と、1〜2年以内にほぼ確実に着手する事業領域の区分に絞って出願するという考え方です。

例えば、現在はカフェ経営(第43類)のみでも、1年以内にオリジナルコーヒー豆の通販(第30類、第35類)を始める計画が明確にあるなら、その3区分で出願します。しかし、5年後にはアパレル展開も「できたらいいな」という程度の漠然とした計画であれば、その時点では「第25類」の出願は見送ります。

そして、事業が成長し、新たな分野への進出が具体的になったタイミングで、必要な区分を追加で出願していくのです。

この「段階的権利化」のアプローチにより、初期投資を抑えつつ、事業の成長に合わせて保護範囲を柔軟に拡大していくことが可能になります。

それでも迷ったら?専門家という最強の羅針盤を使いこなす

ここまで区分選びの重要性と具体的なテクニックについて解説してきましたが、それでも自社のケースに当てはめると判断に迷う場面は多いでしょう。特に、複数の事業が複雑に絡み合っている場合や、法的な解釈が難しいケースでは、自己判断には限界があります。そんな時に頼りになるのが、知的財産に関する専門家です。費用をかけて専門家に依頼することに躊躇する方もいるかもしれませんが、まずは無料で相談できる公的な窓口を活用することから始めてみましょう。

まずは無料で相談!「INPIT知財総合支援窓口」の賢い活用法

INPIT(インピット)知財総合支援窓口」は、独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する公的な相談窓口で、全国47都道府県に設置されています。中小企業や個人事業主が抱える知的財産に関する様々な悩みに、無料で対応してくれる非常に心強い存在です。

この窓口では、経験豊富な支援担当者が、アイデア段階の相談から事業展開に関する知財戦略まで、幅広くアドバイスを提供してくれます。区分選びに迷っている、J-PlatPatの使い方がわからない、といった初歩的な質問はもちろん、より専門的な内容についても、必要に応じて弁理士や弁護士といった専門家と協働して支援してくれます。

まずは最寄りの窓口に電話してみることで、問題解決への具体的な道筋が見えてくるはずです。

弁理士に依頼する本当の価値とは?費用以上のリターンを考える

無料相談で解決できない複雑な課題や、出願手続き全体を任せたい場合には、弁理士への依頼が最適な選択肢となります。弁理士に依頼すると、特許庁に支払う印紙代に加えて、数万円から十数万円の代理人手数料が発生します。しかし、その費用には、単なる書類作成の代行にとどまらない、以下のような価値が含まれています。

• 戦略的な権利範囲のコンサルティング: あなたのビジネスモデルや将来の事業計画をヒアリングした上で、どの区分をどのような表現で取得するのが最も効果的か、専門的な視点から最適なポートフォリオを提案してくれます。

• 拒絶リスクの低減: 徹底した先行商標調査と、審査官の判断基準を熟知した上での出願書類作成により、拒絶理由通知を受けるリスクを大幅に低減させます。

• 時間と手間の大幅な削減: 複雑な書類作成や特許庁との煩雑なやり取りをすべて代行してくれるため、あなたは本来の事業に集中することができます。

自分で出願して失敗した場合、ブランド名の変更にかかるコストや、権利侵害で訴えられるリスク、ビジネスチャンスの損失などを考えれば、専門家への投資は決して高いものではありません。むしろ、事業の根幹を守るための必要不可欠な保険と捉えるべきでしょう。

まとめ:あなたのビジネスに最適な区分戦略を立てるための最終チェックリスト

最後に、この記事の要点をまとめたチェックリストを用意しました。あなたの商標登録を成功に導くため、ぜひご活用ください。

• 自社の現在の事業内容をすべて洗い出しましたか?(イートイン、テイクアウト、物販、ECサイト運営など)

• 1〜3年以内に展開する可能性が高い未来の事業計画はありますか?

• J-PlatPatを使って、関連する区分と競合他社の登録状況を調査しましたか?

• 区分だけでなく、より詳細な「類似群コード」まで確認しましたか?

• 保護したい範囲と、かけられるコストのバランスは取れていますか?

• 登録の確実性に不安がある場合、区分を分けて出願する戦略を検討しましたか?

• 少しでも判断に迷う点があれば、INPIT知財総合支援窓口に相談する準備はできていますか?

区分選びは、商標登録という航海における羅針盤です。正しい方角を指し示す羅針盤があってこそ、あなたのブランドという船は、模倣という嵐を乗り越え、ビジネスの成功という目的地にたどり着くことができるのです。